悪魔召喚(喚起)儀式

いよいよ悪魔召喚(喚起)の儀式に入りますが、術者は「召喚(喚起)作業」開始から「悪魔の退去」を確認するまでの間は一歩も「魔法円」の外に出る事がないように注意して下さい。「魔法円」は術者を「悪魔」より守ってくれるものであり、術者が「魔法円」の外へ出た場合、その安全は全く保証出来ないものとなります。

以下では実際の召喚儀式を順を追って説明して行きます。

― 召喚儀式のための前準備 ―

この日、まだ身を清めていなければ最初に「入浴の礼拝」と「衣服の恵みの礼拝」を行います。(「入浴の礼拝」「衣服の恵みの礼拝」については「魔術的作業の前準備」の同項目を参照して下さい。)「シジル」を胸から下げ(または胸に飾り)、必要な魔術道具を装備し準備を整えます。「香」を焚く者は「香炉」と「香」とを用意しておきます。また、「蝋燭」や「ランプ」を使う者はそれを配置します。

― 「魔法円」の「祓い」と「聖別」 ―

準備が出来たら「魔法円」に入り、蝋燭に火を点けます。(必要ならばこの時点で香を焚きます。また、必要であれば、額、顎の下、両手首の内側、目の下などへの塗油を行ないます。)

最初に「追儺の儀礼」を行います。これには、通常、「五芒星の小追儺儀礼」を用います。(「五芒星の小追儺儀礼」については「魔術の基礎儀礼 : 五芒星の小儀礼」を参照して下さい。)それから「追儺の儀礼」の後に「予備的召喚」を行います。これにより「(魔術師の)魔法円」をより堅固なものとし、術者の安全性を高めます。(「予備的召喚」は「魔術のための意識の高揚と変容」を起こし易くするための予備的段階を術者の中に作るためものでもあります。)「予備的召喚」は以下のようになります。

追加説明 ― 。呪文の途中の「XXX(魔法名)」とされているところには自分の「魔法名(Magical Motto)」を入れます。(魔法名については「魔術の基礎知識 : 魔法名」を参照して下さい。)「XXX(魔術的民族)」とされているところにはその「魔術的民族(Magical Race)」の名を入れます。「魔術的民族」については手元に詳しい資料もなく、その決め方などについては良く分からなかったのですが、自身の魔法名に適したものを使うのが良いのではないかと思います(恐らく…)。

これらは『ゲーティア』の [ First Edition ] では、魔法名の箇所が [ Mosheh(モーセ) ] 、そして魔術的民族の箇所が [ Ishrael(イスラエル) ] となっていました(ここで使用しているのは [ Second Edition ] です)。そのため、魔法名、魔術的民族が良く分からないと言う人はこれ(こう言った付け方)を参考にしては如何かと思います(無保証ですが…)。また、何処かの(魔術)団体に属しているのであれば、「魔術的民族」の箇所にはその団体名を入れても構わないかと思います。参考になるか如何かは分かりませんが、『ゲーティア』以外の資料では、「魔術的民族」を入れる1つ目の箇所が「光の魔術」、2つ目の箇所が「太陽」となっているものもありました(当て嵌めている名前は「魔術的民族」を表すものではなくなっていますが…)。因みに、「A・クロウリー(A.Crowley)」がこの項目に於いて使用したのは、「魔法名」が [ Ankh-f-n-Khonsu : アンク フ (ン) コンス ] であり、「魔術的民族」が [ Khem : ケム(黒き地、エジプトの事) ] であったそうです。

― 悪魔召喚(喚起)儀式 : 悪魔の呼び出し ―

召喚作業の中核にあたるのがこの「悪魔召喚」です。これは大きく3つの段階に分ける事が出来ます。

  1. 悪魔の呼び出し
  2. 悪魔への命令
  3. 悪魔の退去

「悪魔の呼び出し」には幾つもの呪文がありますが、悪魔は最も早い場合は最初の呪文で現れますし、逆に最も遅い場合は最後の呪文まで掛かる事になります。そして、場合によっては最後まで呼び出せずに終わる事もあります。幾つもある呪文は最初の呪文から順に唱えて行くのですが、「悪魔」が出て来たところで次の段階である「悪魔への命令」へと進みます。この時、それより後に位置する残った呪文は唱えません。飛ばす事になります。

また、「悪魔の呼び出し」で最後まで悪魔が出現しなかった場合は「悪魔への命令」を飛ばし「悪魔の退去」へと進みます。この「悪魔の退去」は召喚(喚起)の成功、失敗に係わらず、最後に必ず行わなければならないものです。この作業が終わり、「悪魔」が完全にいない事を確認するまでは決して「魔法円」から出ないようにして下さい。

― では、以下より実際の悪魔召喚(喚起)儀式に入ります。

術者は円の中央に立ち、この作業の目的を声に出して高らかに宣言します。それから悪魔召喚(喚起)のための呪文の詠唱に入ります。(必要ならば呪文の詠唱の前に香を焚きます。或は既に(最初に)香を焚いているのであれば、そこへ香をくべるようにします。この香をくべる作業は、これ以降、「悪魔」が出現するまでの間に何度行なおうとも構いませんが、「悪魔」が出現してからは行なわないようにして下さい。(「悪魔」の出現時にはこれとは別に「甘い香」を焚く事になります。)必要であれば塗油を行ないます。)最初に以下の「悪魔を呼び起こす呪文(第一の呪文)」を唱えます。[ N (= Noun(名詞) ] の箇所には呼び出す悪魔の名前が入ります。

この「第一の呪文」を幾度も繰り返し唱え、それでもまだ悪魔が出て来ないのであれば、以下の呪文、「第二の呪文」を唱えます。どの過程に於いてもそうですが、悪魔が呼び出せた場合は「悪魔への命令」へと進みます。

もしこれらの2つの呪文を唱えて、まだ悪魔が来ないのであれば、以下の呪文を唱えます。それは「強制」です。

「強制」の呪文を唱えた後も術者の前に悪魔が現れなかった場合は、悪魔達は彼らの「四方の王」によって何か別の場所へと送られている可能性があります。故に来る事が出来ないと考えられます。もしそうであるならば術者は「四方の王」に対し彼らをここへ送るように命じなければなりません。それは以下の呪文によって行われます。この呪文は「王の召喚(呪文)」と言われます。

術者は上記の「王の召喚(呪文)」を2度3度と行い、「四方の王」に命じた後で、再び悪魔を前述の呪文(「第一の呪文」~「第二の呪文」~「強制」)によって呼び出します。悪魔が「四方の王」が原因となって来られない場合は、この組み合わせを数回繰り返す事により疑いなく来るものと思われます。

しかし、それでも来ない場合、彼らは「四方の王」の下にあるのではなく、地獄の鎖に束縛されているものと確信します。もしそうであるならば、そして術者がまだ悪魔をそこから呼びたいと言う願望を持っているのならば、術者は「悪魔の鎖」と呼ばれている一般の呪いを唱えなければなりません。

これは前述の呪文(「第一の呪文」~「第二の呪文」~「強制」)の終わりに言い足すようにして用います。これによって、悪魔が鎖に縛られてさえいても、彼は来る事を強制されるようになります。それは呪文(「悪魔の鎖」)によって鎖が悪魔から外れ、悪魔が自由となるからです。

術者が以上の事を行っても未だ悪魔が現れないと言う時は以下のようにします。

未使用の「羊皮紙」に対象悪魔の紋章を描き、そして強固で黒い箱の中へとそれを置きます。更に硫黄、阿魏、そしてそのような悪臭を生むものと一緒にし、それから箱の周りを鉄線で縛ります。それを術者の持つ剣の先にかけ吊るします。そして、木炭を悪魔が遣って来る方向へと配置し、火を入れ、箱を木炭の火で覆うように上方で保ち、そのままの状態で、以下にある「火の呪文」を唱えます。(当然ですがこの箱は金属、または火のつかない物質でなければなりません。そしてそれは「鉄(火星)」が最善であるとされています。)

そして、もし悪魔がまだ来なければ、術者は続けて「大いなる呪い」を唱えます。

それから術者は火の中へと箱を置きます。これで暫く後には悪魔は来る事になるでしょう。

そして、悪魔が来たら直ちに箱のあるところの火を消し、それから「甘い香」を焚き、彼に歓迎ともてなしを与えるようにします。

もし「火の呪文」「大いなる呪い」によっても悪魔が現れない場合は諦めるしかないでしょう。また日を改めて行うと言う事になります。「悪魔の退去」以下の作業へと進んで召喚儀式を終えて下さい。(召喚(喚起)に失敗しても「悪魔の退去」以下の作業は行はなければなりません。)

― 悪魔召喚(喚起)儀式 : 悪魔への命令 ―

現れた悪魔に対して、亜麻布で包み衣服(法衣)の下に隠しておいた [ Pentacle(ペンタクル) ] を見せ、そして以下の「悪魔への語り掛け」を唱えます。(ここで言う「ペンタクル」とは「ソロモンの六芒星」の事であると思われます。)

その後、悪魔(または悪魔達)は言う事を良く聞き、術者が何かを尋ねると、それに対し答えるようになるでしょう。これは悪魔(または悪魔達)が神によって我々の望みと命令を果たすために服従させられたからです。悪魔(または悪魔達)が謙虚で大人しい様を示したら、それから術者は以下の呪文を実行します。

その後、術者は「魔法円」の中心に立ち、命令の身振りで自分の手を前へと伸ばし、そして以下のように言います。この時、剣(短剣)を手にして命令しても良いでしょう。

"ソロモンのペンタクルを以て我は汝を呼び出した! 我に真実の答えを与えよ! "

それから術者は自分の願望と要求を述べます。

この時、悪魔が「三角形」の中に入っている事を必ず確認して下さい。「三角形」に縛られていない悪魔は術者を欺く可能性があるためです。そして、もし悪魔が「三角形」の中へと入っていないのであれば、その悪魔に対してそこへ入るように強く(例えば呪文の中にある神の名や、「ソロモンのペンタクル」を使うなどして)命令し、悪魔を確りと「三角形」に縛り付けてから事を進めるようにして下さい。(これは、ここに至るまでについても注意しなければならない事ですが、特にこの「自分の願望と要求を述べる際」に於いては非常に重要であると言えます。)

悪魔に自分の願望を了承させたら「悪魔の退去」へと進みます。

― 悪魔召喚(喚起)儀式 : 悪魔の退去 ―

術者は悪魔に出発の為の許可を与えます。これは悪魔の召喚(喚起)に失敗しても行っておくべきものです。悪魔を退去させるための呪文は以下のようになります。

出発の許可を与え、悪魔(または悪魔達)が立ち去った後、(この時、悪魔が本当に立ち去ったかどうかの十分な確認を忘れないようにして下さい。少しでも変わった事(ところ)があれば、悪魔がまだ去っていない可能性が考えられます。)術者はその悪魔がいなくなった事を確認し、それから神への祈りと感謝を行います。(この神への祈り、感謝は、神が術者の願いを承諾した時に術者へと与えた大いなる恩恵と、術者を悪魔のあらゆる悪意から守ってくれた事とに対して行われるものです。祈りと感謝とを表すための言葉については特に決められたものがある訳ではないので、そこは自分の思った事を自分の言葉で述べるようにしましょう。例えば、「おお、神よ、我が望みを聞き届け、邪悪より守ってくれた事に感謝します。」などと言ったような簡単なものでも構わないと思います。悪魔が去った後に行います。)術者は悪魔(または悪魔達)が完全に立ち去り、神への祈りと感謝を終えるまでは「魔法円」から一切出ないようにします。

退去の許可を与えたにも係わらず、悪魔が即座に立ち去らない場合は「立ち去りの許可」を何度か繰り返し唱えます。(この時、場合によっては「悪臭を放つ物質」を燃やすのも良いかと思います。)それでもまだ悪魔が立ち去らないのであれば、術者は一度「円」を「聖別」し直してから再び「立ち去りの許可」を繰り返し唱えるようにします。(「円」を「聖別」し直す作業には細心の注意を払うように心掛けます。)更にそれでも退去させる事が出来なかった場合は、術者は悪魔の四属性(「火」「水」「風」「地」)に対応した「追儺(退去)の五芒星」を(空中に)描き、(その中心を指し示し、描いた「五芒星」に対応した)神名を唱え、それから「立ち去りの許可」を繰り返し唱えるようにします。(「追儺(退去)の五芒星」や対応する神名については「五芒星型(五芒星型/逆五芒星型)」を参照して下さい。)これで悪魔は自分のあるべき場所へと去る事でしょう。退去させる作業がここまで拗れる事は滅多にないと思われますが、しかしこのような事態が起きた場合には、例え悪魔が消え去ったとしても安心せずに、その後も十分な注意を払い、より慎重に行動するようにして下さい。常に自己の安全が第一です。

― 召喚(喚起)儀式終了後 ―

悪魔が退去した後(正確には退去を完全に確認した後)、術者は召喚(喚起)作業を行った空間を「追儺の儀礼」によって「祓い」ます(「NOTE ― 2」を参照)。これは「魔法円」に入って最初に行った「祓い」と同じく「五芒星の小追儺儀礼」を用いて行います。場の「祓い」を終えたら「魔法円」から出て、道具の後始末をしたら作業の全ては終了です。

NOTE ― 1

悪魔と接する際の注意事項です。

悪魔に対しては決して親しくなる事なく最後まで主従関係を崩さないようにして下さい。その上で礼儀を以て接するようにします。術者が強い態度に出るのは悪魔が強く抵抗した際の事となります。

悪魔が術者に提案や交換条件と言った類の話を持ちかけて来る事があったとしても、術者はその事に対し一切耳を貸してはいけません。悪魔の言う事は如何なる事であっても無視して下さい。悪魔は術者が上位に立ち、「命令」によって従わせるものであり、それは交換条件などを必要とするものではありません。

NOTE ― 2

必要ならば次の様な言葉を用いた不特定の霊への退去許可、追儺命令を行ない、それから「追儺の儀礼」を行なうようにします。

"IHShVH の名に於いて、我、この儀式により捕らわれし、全ての霊を解放する。"

NOTE ― 3

術者が「魔法三角形」ではなく「真鍮の容器」を用いて悪魔を召喚する場合について書いておきます。

「真鍮の容器」を用いた「悪魔召喚(喚起)」は上記の「魔法三角形」を用いて行う作業と殆ど同じであると言って良いでしょう。但し、その場合は「物質」「言葉」の両方に於ける「三角形」と書かれている部分を「真鍮の容器」に換えて考える事が必要です。

例えば、術者が悪魔を「真鍮の容器」の中へと呼び出す時は、「汝は直ちに、この円の前、真鍮の容器の中に、正しく美しい姿で現れよ。」と言ったように「魔法三角形」の部分が「真鍮の容器」に換わります(言葉の交換)。また、悪魔に命令をする時も「魔法三角形」に束縛する代わりに「真鍮の容器」の中へと入れてから行う事になります(物質の交換)。

準備する道具、全体の手順などは「魔法三角形」を用いた場合と同じです。

NOTE ― 4

魔術道具の紹介のところでも触れましたが、「真鍮の容器」は「悪魔」が中々現れない時や、言う事を聞かない時に「悪魔」を脅すための道具としても使えます。その際には「印形」を容器の中へと閉じ込めて「封印」するか、その素振りを見せるようにするのですが、これは「悪魔」が昔、「ソロモン」によってこの容器へと封じ込められていたと言う事を利用した彼らへの脅迫であり、「悪魔」はこれによって「封印」されていた昔を思い出し、それと同時に二度とあの時のように「封印」されたくはないと思い、術者に従うようになる…と言う仕組みのようです。

この事からわかる事は悪魔が「真鍮の容器」を酷く恐れていると言う事です。しかし、もしそうだとするならば、「NOTE ― 2」のような「真鍮の容器」の中への「召喚(喚起)」は少々成り立ち難いような気もします。悪魔が自分の最も恐れている(封印されてしまうかも知れない)空間へとのこのこ遣って来る姿は考え難いところです…。

余談ですが…「NOTE ― 2」の記述は「ゲーティア」の本文、召喚(喚起)作業の最後にあった以下の記述を元にして書いています。

「汝は、次のように言う事によって、三角形の中へと汝が行うのと同様の礼儀で、これらの悪魔を真鍮の容器の中へと(現れるように)命令する事が出来る。"汝は直ちにこの円の前、この真鍮の容器の中に現れよ、正しく美しい姿で…" 云々…(ここ(最後)より)前に置かれている呪文に於いても同様(即ち、全ての呪文に置いて三角形を真鍮の容器に置き換えれば良い)と言える。」

それに対し、「NOTE ― 3」の記述は「ゲーティア」以外の資料を幾つか参考としています。

しかし、「真鍮の容器」が絶対に必要だと言う状況は滅多にないと思われますので、実際には以上のような事、即ち、「真鍮の容器」が召喚のための入れ物か、それとも「悪魔」を脅迫するための道具かと言う事は気にする必要がない(どちらでも構わない)ものと思われます。

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