自己参入儀礼(セルフ・イニシエーション)

ここでは魔術における参入儀礼の意味と個人での参入儀礼の方法について書いて行きたいと思います。 魔術の世界への参入儀礼と言うと何か大袈裟な事の様に思われるかも知れませんが、 行う目的、行う内容、作用などは例えば学校の入学式などと大して変わりがありせんので、 魔術的な事が良く分からないと言う人は入学式などと照らし合わせて読むと理解し易いかも知れません。 (「魔術師になろう」からの移動記事です。移動に際し多少修正を加えてあります。 また、記事の移動に合わせて元記事は簡略化しました。)

― イニシエーション ―

「イニシエーション(参入儀礼、通過儀礼)」とは古い段階から新しい段階へと移行するために行われる儀式、新しくその世界へと入って来る新参者に対して行なわれる儀式です。ここ(魔術)で言えば魔術の世界へと入るため(心的に適応するため)の儀式、即ち、一般人からきちんとした魔術師(線引きされた魔術師)へと(心的に)移行するための儀式と言う事になります。魔術の世界では「イニシエーション」を行なう事によって初めて(心的に)魔術師(これから魔術の道を歩む者)となる事が出来ると言えます。これは魔術団体へと入る時にも行われます。それを受けたものは晴れてその団体の団員(魔術の道を歩く資格を得た者)であると言う事になります。(更に団体によっては大きな新しい段階へと上がる時に行われます。)

「イニシエーション」はその世界の先人によって行われるのが常ですが、個人で魔術師を目指している場合はそれを行ってくれる人は誰もいません。しかし、「イニシエーション」は少し工夫をすれば自分一人で行なう事も十分に可能です。即ち、「セルフ・イニシエーション」です。そして、この「セルフ・イニシエーション」は、(他の魔術儀礼もそうですが、)要点さえ抑えれば自分で考案したものでも全く構わないと思います。以降では自分で作る「セルフ・イニシエーション」の要点について書いて行こうと思います。

― NOTE ―

「イニシエーション」は一般人か魔術師か曖昧な段階にある人を魔術師へと切り上げるためにはとても重要な儀式であると言えます。しかし、魔術の道を歩もうと最初から強い決心を持って段階を踏んで魔術の修行を進めて行く者、行って来た者に対してこの「イニシエーション」と言うものが必ずしも必要なものなのか如何かは難しいところです。修行して行く段階で心が自然と魔術の世界へと適応して行っているのであれば「イニシエーション(心的切り上げ)」を行う必要はないと言えるかも知れないからです。最初から覚悟を決めて魔術の道をゆくっりと歩いて来た者にとってはその過程と共に心的準備も進んで行く事でしょうし、「イニシエーション」を個人で執り行う事の出来る段階まで来た者は、その殆どは、既に心的準備も出来上がっているのではないでしょうか。

それでも節目として何らかの儀式が必要だと感じる人は(意識化出来ていない可能性があるので)行なうべきものとなるかと思います。

― セルフ・イニシエーション ―

先にも書いたように「イニシエーション」とは今までの(古い)世界から新たな世界へと入って行く際に行なわれるものです。そして、大抵、死と再生がモチーフとされています。「セルフ・イニシエーション」の基盤となるのも同じくこの死と再生であり、その場合、自らが自らにそれを象徴的に執り行なうと言った形になるでしょう。「イニシエーション」は大雑把に段階分けして簡単に書くと以下のような感じになります。

  • 今までの世界との別れ、日常的世界からの隔離。
  • 新たな世界への不安と恐れが与えられる。
  • 新たな世界に対する服従を誓う(受け入れる)。
  • 古い世界の自分に死が齎される。
  • 死の闇の世界に(新しき世界に属する)光が差し込み、再生する。
  • 新たな世界を目にし、そして新たな世界での歓迎を受ける。

上から順番に(一般的な事は省き、魔術の世界での事に限定して)見て行きます。

最初にある今までの世界(古い世界)との別れは…今まで着ていた日常的な衣服(即ち、古い世界の衣服)を脱ぎ捨てて魔術(新たな世界)の制服であるローブで身を覆う事、魔術(新たな世界)の場(魔術用の部屋、神殿)の中に身を置く事などと言ったような今までの日常的世界(古い世界)からの切り離し、隔離によって演出されます。

次の不安と恐れは…そこに於ける無力、無知、見えない、わからない、未知への不安と恐れです。他者が執り行う場合は、目隠しと紐による拘束をされた状態で何処かへと連れて行かれ、知らない誰かが自分の良く分からない何かを行っている…と言ったような事などで演出されます。

次の服従は…魔術の道を歩く事への誓い、苦難に従う事、自分自身を魔術へと捧げる事、即ち、犠牲の行為によって示されます。団になると団で得た秘密を漏らさない事に重点を置いて誓わされる場合もあるかと思います。

誓いの後に訪れる死は…古き自分(古き世界の自分)の死です。他者が執り行う場合は、他者に首に剣を当てられるなどの象徴的な死が演出されます。

死の後の再生は…暗闇、不安、恐怖から解放され、新たな世界を目にして、魔術の世界や先人達からの歓迎を受ける事で示されます。他者が執り行う場合は、拘束が解かれ、新たな世界が開示され、参入を歓迎されます。新たな世界での再生によって希望や期待を胸に魔術の道へと踏み出す事になります。

「セルフ・イニシエーション」は以上のような事を自分で自分に執り行えば良い訳なのですが、この場合、他者(先人達)が執り行う「イニシエーション」とは違い自分一人しかいませんので、当然、それに伴う困難も出て来る事と思われます。

例えば、「目隠し、拘束、連行」をそのまま行うとしたならば…自分で目隠しと拘束を施して移動すると言う事になりますが、これには少々無理がありますし、意味さえ余りないと言えるでしょう。また、死のために他者に「首を切断される」と言う行為も、そのまま行うとしたならば、自らが首を切断すると言う事になるのでしょうけれど、これは、前の工程からの連続で見ると、目隠しと拘束を施したまま自分で自分の首を落とすと言う事になって仕舞います…。

そもそも、これらの行為は目的のための1つの手段に過ぎず、その行為の形自体が重要な訳ではありません。「目隠し、拘束、連行」も参入志願者を無力で何もわからない状態にして不安と恐れを感じさせるための1つの方法ですし、「首を切断する」のも参入志願者に(象徴的な)死を与えるための1つの方法です。ですので、新たな道への不安や恐れを感じるために「目隠し、拘束、連行」以外の方法を用いても構いませんし、参入志願者の死も他者に首を落とされる以外の方法を用いても構いません。

例えば、真っ暗で何も見えない深い森の中を武器も持たずに1人でに先へ進むと言うところをイメージしたり、短剣を使って自分で自分を刺したりなどでも良いでしょう。他にも様々な方法がある事かと思います。

ここでは例えとして2つの箇所を上げましたが、これ以外の箇所についても、当然、個人で行い難いと思われるところはあるかと思いますので、それらに関しては想像力を働かせて自分なりの工夫や簡略化を(要点を確りと抑えつつ)施し、自分の環境にあった形にして行なうようにすると良いでしょう。

― セルフ・イニシエーションの実践(一例) ―

以下は視覚化を利用して足りない部分を補った「セルフ・イニシエーション」の一例です。大雑把な構成と進行だけを書きましたが、(もし、参考にしていただけるのであれば)細部は自分なり詰めて行く必要があるかと思います。(勿論、セルフ・イニシエーションはこれ以外の全く別のものであっても構いません。全く何をしたら良いか分からないと言う人のための簡単な一例ですので。)

準備

普段着を脱いで、沐浴を済まし、魔術用の暗い色のローブを身に着けて魔術専用の部屋に入ります。(魔術の空間に身を置き日常(及び日常の自分)から自分を隔離します。)必要があれば蝋燭を灯したり香を焚いたりします。

視覚化によるセルフ・イニシエーション

身体的精神的状態を適正に整えて視覚化を始めます(以降視覚化)。

(最初に門(扉)を潜る場面を置いても良いですが…自分の様式に合わせて下さい。)森の中にあると言う光を求めて暗闇に包まれた深い森を恐る恐ると先へ進んで行きます。(この時、暗闇の森の中を奥へと進む事による不安や恐れを感じて下さい。)

暫く進むと(暗くて良く見えないが)広場のようなところに付きます。

そこには1人の老賢者がいます。彼は光を求める者(参入志願者)を見て次のような事を言います。それは…求める光はこの森のもっと深い奥にあると言う事、そしてこの先(魔術の世界)へと進む事に何の苦労も厭わない事、如何なる苦難にも屈せずに最後までその光を求め貫く事(など)を誓うならば先へ進む事を許そう…と言ったような事(一例)です。(魔術の道への服従、自身の犠牲です。魔術の道を進む事への強い覚悟を持って下さい。)

その誓いを老賢者に立てると老賢者は参入志願者に次のような事を言います。それは…古き己に死を与えよ…と言ったような事(一例)です。気が付くと目の前には短剣が置かれています。老賢者の言葉に従いその短剣を手に取り、両手で握り締め、自らの胸を貫きます。そして、その場で息絶えます。(今までの古い自分の死です。)

その後、真っ暗で何も見えない聞こえない死の状態にある中に光が差し込んで来ます。光は神聖な光であり、とても暖かで生命の力に満ちたものです。自分の中に神聖な光を感じ、それによって自身は再生します。(聖なる光に照らされての再生です。神聖さや復活の暖かさを感じて下さい。)

目を開けると目の前には森への奥へと続く小道があり、自分はその入り口に立っています。(小道の入り口の両側に2本の柱を置く事も可です。この辺りは自分の様式に合わせて下さい。)

気が付くと手には老賢者の与えてくれたと思われる明かりの灯ったランプがあります。彼は求める光がこの道の向こうにある事を教えてくれます。そして、この道を進む事を許可してくれた老賢者は森の奥で待っていると言って姿を消します。

神聖へと続く道を前にして、それを奥へと進む事に不安や恐れは感じません。ランプの光を見ると死の中に流れ込んで来たあの光に似た感じが思い起こされます。更なる奥へと光を求めて進み行くためにそのランプで小道を照らし出します。((一つ前の段落と合わせ、)新たな世界への道の開示と歓迎です。先へ進む事の(恐れではなく、今度は)希望や期待を感じて下さい。)

終了作業

ここで視覚化を終了し、適切な終了処理を行って部屋を出ます。「セルフ・イニシエーション」の終了です。

― 終わりに ―

先に書いたようにこれは一例でしかありません。ここでは舞台は暗闇の森の中でしたが、それが深い海の底や高く険しい山であっても構いませんし、死の訪れの際には棺や穴の中に身を置く場面を付け足しても構いません。ランプを手にしている代わりに、道自体が奥から漏れて来る明かりで照らされていても良いでしょう。また、神話の王や英雄などをモチーフとした死と再生を行なう事により象徴性を強める事も可能です。自分なりの工夫を加える余地は幾らでもあるかと思います(と言うよりも、このままでは余り使い物にならないかも知れません…。各自で工夫しましょう)。

セルフ・イニシエーションが如何しても必要だと言う方は以上のような感じで行って見ると良いのではないかと思います。

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