『黒い雌鳥』について

『黒い雌鳥』の著者と、書かれた時期

『黒い雌鳥』の書かれた時期については、怪しげな説が幾つかあるものの、実際には18世紀の終わりに登場したものだと考えられています。作者は本文の中に出て来る匿名のフランス人であり、それが誰であるのかは不明です。因みに、本の中表紙によると…元々はヒエログリフやマギの言語で書かれていたものを [ A.J.S.D.R.L.G.F. ] と言う人物がフランス語に訳したものであり、場所はエジプト、年代は740年であると言う事になっています。

『黒い雌鳥』の内容(物語部分)

本文は最初から最後まで通して1つの物語となっており、その多くの部分は、この本を書き残したと思われるフランス人(主人公)とピラミッドに住む老人との会話形式によって書かれています。内容を簡単に書き出すと以下のようになります…。

フランス人士官(主人公)は将軍の命令により編成した軍隊と共にエジプトへと向けて出発します。一行は何事もなくピラミッドの近くまで着きますが、そこでアラブ人の部隊に襲撃され、部隊は壊滅してしまいます。彼は深く傷付き、砂漠の中で自身の死を覚悟しますが、その時、ピラミッドの中から出て来たイスラムの徒らしき老人(トルコ語を使う)によって助けられます。彼はピラミッドの中に運ばれ、そして老人によって(魔術的な)治療を受けます。回復した彼は命の恩人であり親切なその老人と親しくなります。そして、彼は跡取のいない老人よって息子と見做され、彼もまた老人を父と呼ぶようになります。息子となった彼に対して老人は自分の生涯の終わりが近づいる事を告げ、自分の持つ秘密の知識と業を息子へと授けようと考えます。そのために老人は彼に、魔法で手に入れた金や宝石などの宝を見せ、神への祈りの大切さなどや、偉大なる者の存在や四大の精霊についてなどを含めた魔術的世界観を語り、霊(奴隷)や実際に幾つかの魔法を使って見せるなどします。それから老人は、霊達を支配するための方法と、タリズマンと指輪の使い方との手解きを彼に行ないます。更に老人は黒い雌鳥の孵し方の書かれた本を彼に渡し、本能によって金を発見すると言う黒い雌鳥を得る方法を彼に教え始めます。その途中、老人は黒い雌鳥の秘術を伝え切る前に自分の命が尽きる事を感じ、自分が死ぬ前に自分の全財産(その他の霊達、自分が魔法で得た宝物や宝石、タリズマンと指輪、黒い雌鳥)と共に黒い雌鳥の秘術を知る霊 [ Odous ] を彼に与えます。それから老人は息子に看取られながら270歳の生涯を終えます。彼は老人の遺言通りに老人を灰にして壷に収め、その後、[ Odous ] と共にフランスに帰る事を決めます。嵐の海をタリズマンを使って鎮めるなどして、無事に母国へと辿り着いた彼は、[ Marseilles ] の郊外に土地建物を買って定住します。そこで彼は今までの出来事を本に纏めます。それから彼は [ Odous ] と共に「金を探す黒い雌鳥」の飼育に成功します。その後、彼は賢者と言われ幸せな隠遁生活を送りましたとさ…と言うお話です。

(良くある型の物語(砂漠、更にはピラミッド、老人(賢者)、秘密の叡知や道具を授かる、成功と言った流れのお話)です。魔術の紹介だけでなく、信憑性やら権威やらを付け加えるための要素が組み込まれています。昔はそう言ったものを必要としていたのか、古い魔術書には多かれ少なかれそう言った面があるので、『黒い雌鳥』のこれも仕方がないところではあるかと思います。ただ、現代人から見ると、隠遁生活を送る賢者から秘術を授かると言ったような出所は逆に怪しさが増して仕舞うところなのですが…。)

この本の構成を大まかに見ると、序盤はフランス人と不思議な老人との出会から信頼関係に至るまでと、老人の極簡単なオカルト講義のようなものとについて(神、世界、人間、霊、霊の領域への旅などについて)が書かれおり、中盤では「タリズマン」と「指輪」とについてが、幾つかの試験的な魔術の実践と共に書かれ、終盤では金を見つける黒い雌鳥を得る方法の伝授、その合間に行なわれた「タリズマン」と「指輪」とを携えての小旅行(小周遊)、老人の死、フランスへの帰国とその過程、一連の出来事を纏めたこの本ついてと読者への注意、黒い雌鳥の飼育の成功、作者のその後についてが書かれています。

『黒い雌鳥』から紹介する内容

今回、ここで扱うのは、本の中盤で紹介されている「タリズマン」と「指輪」とについてとなります。それ以外のところは殆ど意味がないと思われるためここでは扱わない事にしました。例えば、序盤にある老人のオカルト講義のようなものについては、(魔術師にとっては)殆ど取るに足らない内容と言えるのものですし…終盤にある黒い雌鳥を得る方法については、極端に実践的ではない(全体の中でも特に怪しげで、そのままでは実用性が非常に薄いと思われる)内容となっていますし…小旅行中に行なわれた老人の講義、ピケット(トランプゲーム)での勝ち方や「数」の知識については、実際に使えるところが殆どなく、極めて必要性の低いものとなっています…。こう言ったものは取り立てて書くような事でもないと思われますので…。また、全編中で老人が何の解説もなく徐にやって見せる魔術についても省いてあります。これは殆どの場合、唱えた言葉とその結果しか書かれていないためです。

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