文字カバラ(ゲマトリア、ノタリコン、テムラー)

「文字カバラ(Literal Qabalah)」とは、簡単に言うと、ヘブライ(ヘブル)語アルファベットによって書かれた言葉の中にある秘密を探る研究の事です。「文字カバラ」の主な手法には、「ゲマトリア」「ノタリコン」「テムラー」の3つがあります。

ゲマトリア(GMTRIA : Gematria)

「ゲマトリア」は、ある言葉に使われている文字の数値を合計し、同数の合計値を持つ他の言葉や合計値から導かれる概念とを関連させて、その言葉の持つ隠された意味を探り出す手法です。(ヘブル語アルファベット持つ数価については「魔術の基礎知識 : 魔術で用いられる文字 : ヘブル語アルファベット」を参照して下さい。)

例えば(良く出て来る例ですが)、『旧約聖書』に出て来る知恵の樹の蛇、[ NChSh : Nechesh(the Serpent that initiated Eve) ] は合計値が [ 358 ] であり、これは同じく合計値が [ 358 ] となる[ MShICh : Messiach(the Messiah) ] と関連があると考える事が出来ます。また、(Genesis 49:10)[ IBA ShILH : Yeba Shiloh(Shiloh shall come) ] も[ 358 ] となり、同じように [ MShICh ] と関連があると考えられます。良く出て来る例をもう1つ…『旧約聖書』の一文、(Genesis 18:2) [ VHNH ShLShH : Vehenna Shalisha(And, lo, three men)] は合計値が [ 701 ] であり、これは同じく [ 701 ] となる [ ALV MIKAL GBRIAL VRPhAL : Elo Mikhale Gabriel Ve-Raphael(These are Michael, Gabriel and Raphael) ] と関連があると考えられます。

この手法は単に合計値を使うだけでなく、合計値の各位を加算したり、合計値を他の数の組み合わせとして分解したりなどして用いる事も出来ます。

ノタリコン(NVTRIQVN : Notariqon)

「ノタリコン」は、単語を構成している各文字を、別の単語の最初の文字や別の文章に使われている単語の最初の文字として考えたり、逆に、複数の単語の最初の文字や文章に使われている単語の最初の文字を取り出して別の単語として考えたりし、単語と文章との間にある隠された意味を探り出す手法です。

例えば、(Genesis 2:8) [ GN-ODN : Gan Eden(the garden of Eden) ] と言う言葉は[ GVPh : Guph(body), NPhSh : Nephesh(soul), OTzM : Ezem(bone), DOTh : Daath(knowledge), NTzCh : Netzach(eternity, forever) ] の頭文字、(Isaiah 9:4) [ ABIAD : Abiad(The everlasting Father) ] は、[ Atziluth, Briah, Yetzirah, Assiah, Daleth(4) ] の頭文字、[ AGLA ] は、[AThH, GBVR, LOVLM, ADNI(Ateh Gibor le-Olahm Adonai) ] の頭文字であると考えられます。また、(John 19:19)[ IShVO HNTzRI, VMLK HIHVDIM(JESUS OF NAZARETH THE KING OF THE JEWS) ] は頭文字を抜き出すと [ IHVH ] になります。

テムラー(ThMVRH : Temurah)

「テムラー」は、言葉の中で使われている文字の配置順を換えたり、ある法則によって各文字を別の文字と置き換えたりし、その言葉の持つ隠された意味を探り出す手法です。

例えば、配置順を換える方法を用いると、(Psalms 21:1) [ IShMCh : Jismach(he shall rejoice) ] と言う言葉から、[ MShICh : Messiach(the Messiah) ] と言う言葉を導き出す事が出来、これら2つの言葉の間には関連があると考えられます。また、(Exodus 23:23) [ MLAKI : Meleachi(angel, messenger) ] は配置順を換えると[ MIKAL : Mikhale(Michael) ] となり、同じく関連があると考えられます。

置き換える方法には上下二段の表を用いて文字を置き換える方法もあります。これは「ジルフ(TzIRVPh)」と言います。以下のようなものがあります。

AThBSh法

「ジルフ(TzIRVPh)」の中でも良く見かけるのが「アトバシュ(AThBSh : Athbash)法」です。「アトバシュ法」とは以下の法則(A-Th, B-Sh, …)に従って文字を置き換える方法の事です。前から進んだ前半の文字 [ A - K ] と後ろから進んだ後半の文字 [ Th - M ] とを対応させて変換します。

[ AThBSh法 ]
AThBSh
A
|
Th
B
|
Sh
G
|
R
D
|
Q
H
|
Tz
V
|
P
Z
|
O
Ch
|
S
T
|
N
I
|
M
K
|
L

例えば、(Jeremiah 25:26) [ ShShK : Sheshakh(Sheshach) ] と言う言葉は、「アトバシュ法」によって [ BBL : Babel ] であると考えられます。また、(Genesis 38:29) [ PhRTz : Peretz(Pharez(Perez)) ] と言う言葉は、「アトバシュ法」で置き換えた後の数値合計が [ 14 ] となる事から、同じ合計値を持つ [ DVD : David ] と関連があると言う解釈が出来ます。

ALBTh法

同じ「ジルフ」でも以下に示した表のような変換法則(A-L, B-Th, …)になると「アルバト(ALBTh : Albath)法」と呼ばれるようになります。これは「アトバシュ法」の下段を1つ横にずらしたものです。

同様の方法によって、2つ横にずらした「AMBL(A-M, B-L, …)法」、3つ横にずらした「ANBM(A-N, B-M, …)法」と言うようになって行きます。

[ ALBTh法 ]
ALBTh
A
|
L
B
|
Th
G
|
Sh
D
|
R
H
|
Q
V
|
Tz
Z
|
P
Ch
|
O
T
|
S
I
|
N
K
|
M

ALBM法

以下は「ALBM(A-L, B-M, …)法」です。前半 [ A - K ] と、後半 [ L - Th ] とを対応させて交換する方法です。

[ ALBM法 ]
ALBM
A
|
L
B
|
M
G
|
N
D
|
S
H
|
O
V
|
P
Z
|
Tz
Ch
|
Q
T
|
R
I
|
Sh
K
|
Th

ABGD法

「ABGD(A-B,G-D ,…)法」です。隣同士の文字で変換する方法です。

[ ABGD法 ]
ABGD
A
|
B
G
|
D
H
|
V
Z
|
Ch
T
|
I
K
|
L
M
|
N
S
|
O
P
|
Tz
Q
|
R
Sh
|
Th

その他の手法

「テムラー」にはこれら以外にも、単語を逆さに綴る「ThShRQ法」や、9つの部屋を使った「アイクベカール(AIQ-BKR : Aiq Bekar)法(the Qabalah of the Nine Chambers)(九室法)」(名前は第一室の三文字 [ AIQ ] と、第二室の三文字 [ BKR ] とから)、484升(22x22)の大きな変換表(順(the Right)、逆(the Averse)、不規則(the Irregular)の三種がある)を使った方法などがあります。


「ゲマトリア」「ノタリコン」「テムラー」(など)の手法は重ねて使う事も可能です。上記の中では [ PhRTz ] の箇所で「テムラー」と「ゲマトリア」とを重ねて使っています。「文字カバラ」にはここに紹介した以外にも様々な手法が見られます。

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